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茨城県(常陸国・下総国・陸奥国)の延喜式内社・平安時代の社格制度


律令制度と延喜式・神名帳の役割

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国立公文書館の公開データの内閣文庫の延期式写本の表紙データ

国は、大化の改新以降、律令制(大宝律令・養老律令等)に基づき天皇を中心とした中央集権国家を確立するために全国を統一的に管理することを目指しました。そのため、全国の政治(国郡里制)・経済(貨幣・均田・徴税[租庸調])・文化(信仰・祭事等)等を国が統括しました。
平安時代には、律令の不備を埋めるために、追加法である「各」と施行細目の「式」が制定されました。式には、三大格式といわれる「弘仁式」(820年:弘仁12年)、「貞観式」(871年:貞観13年)、延喜式(905年~927年完成:延喜5年~延長5年) があり、弘仁式と貞観式は現在していませんが、延喜式は全50巻が写本として現存しています。
延喜式は、905年(延喜5年)、醍醐天皇の命により藤原時平らが編纂を始め、時平の死後は藤原忠平が編纂に当り、弘仁式や貞観式とその後の式を取捨編集し、927年(延長5年)に完成しています。その後改訂を重ね、967年(康保4年)に施行されました。 延喜式神名帳は、延長5年(927年)にまとめられた 「延喜式」の巻第九・巻第十のことで、当時「官社」に指定されていた全国の神社一覧です。
延喜式に由来する現在でも使われている言葉が延喜式の「神名帳」や「式内社」です。
「神名帳」は、信仰(神道)を全国的に統一的に格付管理するために各地の代表する神社を官社とし、格付けに応じた幣帛(へいへき:神への供物)を授与するための朝廷の帳簿です。

※画像は、国立公文書間の内閣文庫の延期式の表紙データ


平安時代の延喜式神名帳と延喜式内社

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国立公文書館の公開データの内閣文庫の延期式写本の巻第九の最初の書き出画像

神名帳は、古代律令制における「神祇官」が作成した官社の一覧表を指し、官社帳ともいわれます。
※神祇官(じんぎかん)
律令制2官の一つで、朝廷および全国の祭祀を担当する官庁のことです。 法制上は太政官(だいじょうかん)と並ぶ最高機関でしたが太政官のように所管の省・寮・司はなく、行政上は太政官に指揮されていました。「神祇」とは、神が天津神である天神を、祇が国津神である地祇を表し、その名の通り祭祀を司るという意味です。
延喜式神名帳は、延長5年(927年)にまとめられた「延喜式」の巻第九・巻第十のことで、神名長に記載されている神社を「式内社」といいます。式内社は、延長五年(927)に完成した当時「官社」に指定されていた神社で全国で2861社の神社、そこに鎮座する神の数は3132座が記載されています。

※画像は、国立公文書館の公開データの内閣文庫の延期式写本の巻第九の最初の記載文


延喜式神名帳と延喜式内社

「神名帳」とは、古代律令制における神祇官が作成していた官社の一覧表のことです。神名帳の式内社は、国・郡別に神社が羅列され、官幣・国幣の別、大社・小社の別と座数、幣帛を受ける祭祀の別を明記するのみで、各式内社の祭神名や由緒などの記載されていません。この神名帳に記載されている神社は、近代までの歴史の変遷において一部に同名の神社が複数ある、合祀等により社名が変更されている等該当する神社が不明になっている事例はあるものの、由緒ある神社として現在においても地域を代表する神社として地域の信仰の対象や観光名所となっています。


延喜式内社と名神大と名神小(国幣大社・国幣小社)の社格制度

社格において、畿内の延喜式内社は、神祇官から幣帛を受ける官幣社といい、畿外の式内社で国の国司から幣帛を受ける式内社を国幣社といいます。
また、その国の神社の重要度や社勢によって、大社と小社に分けられました。機内の官幣大社は198社、官幣小社は375社で、畿外の国幣大社は 155社で 、国幣小社 は2133社 でした。


延喜式内社と論者・比例社

平安時代から近代までの経過において、合祀等の名称変更、同一地域において同名の神社が複数ある等により、延喜式神名帳に記載された神社が確定できない場合があります。
延喜式神名帳に記載された神社と同一もしくはその後裔と推定される神社のことを論社(ろんしゃ)・比定社(ひていしゃ)と呼びます。
本サイト茨城県の式内社の記載では、論社・比定社も記載していますので小社(国幣小社)の数は一致しません。


式外社と国史見在社


式外社

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一般的に延喜式神名帳に記載されていない神社で、資料によって延喜式成立当時(平安時代)に存在していた神社を式外社といいます。
朝廷の勢力範囲外の神社や、独自の勢力を持った神社(熊野那智大社など)、また、神仏習合により仏を祀る寺となった神社、僧侶が管理した神社(石清水八幡宮など)があります。茨城県では、飯名神社(つくば市:常陸国風土記)、国神神社(行方市:常陸国風土記)等や、以下の国史見在社が式外社の神社です。


国史見在社(式外社)

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式外社のうち、奈良・平安時代の歴史書「六国史」に名前が見える神社を国史見在社、あるいは国史現在社といいます。
※六国史=奈良・平安時代に勅命によって編纂された六つの歴史書である『日本書紀』『続日本紀』『日本後紀』『続日本後紀』『日本文徳天皇実録』『日本三代実録』の総称です。
茨城県では、息栖神社(神栖市)、加波山三枝祇神社(桜川市)、體見神社(つくば市)等の神社は、日本三代実録に記載されている神社で国史見在社です。


平安時代以前(延喜式神名帳)の茨城県の国名について

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現在の茨城県は、平安時代の常陸国と、下総国の一部、陸奥国の端部で構成されています。そのため、延喜式神名帳に記載の神社を調べるためには、常陸国、下総国、陸奥国の延喜式神名帳を確認する必要があります。
下総国の一部、陸奥国の茨城県の部分は以下の通りです。


(1)下総国の茨城県部分と延喜式内社

下総国の茨城県の式内社には、健田須賀神社(結城市)、桑原神社(常総市)、蛟蝄神社(利根町)の3神社があります。平安時代には、一部の県西、県南地区は下総国でした。
茨城県西の下総国(結城郡・豊田郡・猿嶋郡)
結城市、古河市、五霞町、境町、八千代町、常総市、坂東市は、かつて下総国でした。
茨城県南の下総国(相馬郡)
つくばみらい市の一部(小貝川を境にした南部)、守谷市、取手市、利根町、河内町の一部は、かつて下総国でした。


(2)陸奥国の茨城県部分と延喜式内社

大子町の八溝山地域は、陸奥国白河郡に属し、白河郡17郷のうち、八溝山東南の地で、10世紀前半には「依上郷」といわれていました。八溝山山頂の八溝嶺神社は、陸奥国の式内社です。平安時代は、陸奥国でしたが室町・戦国時代に佐竹氏の勢力拡張により、常陸国となったものです。


延喜式神名帳における茨城県の延喜式内社について


茨城県の延喜式内社・名神大の神社

茨城県の延喜式内社の名神大の神社は、すべて旧常陸国にあり以下の7社です。

  1. 鹿島神宮(一ノ宮):鹿島郡 茨城県鹿行:鹿島市
  2. 静神社(二ノ宮):茨城県北:那珂市
  3. 吉田神社(三ノ宮) 茨城県央:水戸市
  4. 大洗磯前神社 茨城県央:大洗町
  5. 酒列磯前神社 茨城県央:ひたちなか市
  6. 稲田神社 茨城県西:笠間市
  7. 筑波山神社・筑波男神 茨城県南:つくば市

茨城県の延喜式内社と名神小の神社

茨城県の名神小の延喜式内社は、下総国(3社)、常陸国(21社)、陸奥国(1社)の25社ありました。
なお、本サイトでは、論社・比定社も掲載していますので茨城県の小社(国幣小社)の数は延喜式神名帳の数と一致しません。
茨城VRツアーの神社一覧において「延喜式内社・名神小」と記載していますのでご確認ください。

  • 常陸国の延喜式内社の名神小:21社
  • 下総国の延喜式内社の名神小:3社
  • 陸奥国の延喜式内社の名神小:1社

総社と一宮・二宮・三宮(常陸国例)


総社とは

日本の律令制において、国司着任後の最初の仕事は赴任した令制国内の定められた神社を順に巡って参拝することでしたが、平安時代になって国府の近くに総社を設け、そこを詣でることで巡回を省くことが制度化されました。
茨城県(常陸国)では、現在の石岡市に国府があり、常陸國總社宮が総社でした。


常陸国の一宮・二宮・三宮

令制国の一宮を指すことが多く、その地域で、最も社格が高い神社を一宮(一の宮・一之宮)といい、次に社格が高い順番で二宮、三宮といわれていました。
律令制において国司は任国内の諸社に神拝すると定められており、通説によると一宮の起源は国司が巡拝する神社の順番にあると言われています。
常陸国では、一宮は、鹿島神宮(鹿嶋市)、二宮は、静神社(那珂市)、三宮は、吉田神社(水戸市)でした。今でも、各神社ではこの言い方を利用しています。


常陸国の延喜式内社一覧(28座27社)

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『延喜式』神名帳では、常陸国の延期式内社は、大社7座7社(名神大社)・小社21座20社の計28座27社が記載されています。

神名帳 比定社
郡名 社名 読み 社名 所在地 備考
鹿島郡 2座(並大)
鹿島郡 鹿島神宮 カシマノ 名神大 鹿島神宮 茨城県鹿嶋市宮中 常陸国一宮
鹿島郡 大洗礒前薬師菩薩明神社 オホアライソザキノヤクシホサツノ- 名神大 大洗磯前神 茨城県東茨城郡大洗町磯浜町  
真壁郡 1座(小)
真壁郡 大国玉神社 オホクニタマノ 大国玉神社 茨城県桜川市大国玉  
信太郡 2座(並小)
信太郡 楯縫神社 タテヌヒノ 楯縫神社 茨城県稲敷郡美浦村木原  
信太郡 阿弥神社 アミノ (論)阿彌神社 茨城県稲敷郡阿見町竹来  
信太郡 (論)阿彌神社 茨城県稲敷郡阿見町中郷  
久慈郡 7座(大1座・小6座)
久慈郡 長幡部神社 ナカハタヘノ 長幡部神社 茨城県常陸太田市幡町  
久慈郡 薩都神社 サチツノ 薩都神社 茨城県常陸太田市里野宮町  
サチトノ
サツノ
久慈郡 天之志良波神社 アマノシラハノ 天志良波神社 茨城県常陸太田市白羽町  
久慈郡 天速玉姫命神社 アメノハヤタマヒメノ- (論)泉神社 茨城県日立市水木町  
(論)鹿島神社 茨城県常陸太田市春友町  
久慈郡 静神社 シツノ 名神大 静神社 茨城県那珂市静 常陸国二宮
久慈郡 稲村神社 イナムラノ (論)稲村神社 茨城県常陸太田市天神林町  
(論)近津神社 茨城県久慈郡大子町下野宮  
(論)礒部稲村神社 茨城県桜川市磯部  
久慈郡 立野神社 タチノノ (論)立野神社 茨城県水戸市谷津町  
(論)立野神社 茨城県常陸大宮市上小瀬  
(論)天満宮 茨城県常陸太田市赤土町  
筑波郡 2座(大1座・小1座)
筑波郡 筑波山神社 二座 ツクハ- 一座名神大 筑波山神社 茨城県つくば市筑波

男体山(イザナギ)

女体山(イザナミ)

一座小
那賀郡 7座(大2座・小5座)
那賀郡 大井神社 オホヰ (論)大井神社 茨城県水戸市飯富町  
(論)大井神社 茨城県笠間市大渕  
那賀郡 青山神社 アヲ- 青山神社 茨城県東茨城郡城里町上青山  
那賀郡 吉田神社 ヨシタノ 名神大 吉田神社 茨城県水戸市宮内町 常陸国三宮
那賀郡 阿波山上神社 アハヤマノウヘ 阿波山上神社 茨城県東茨城郡城里町阿波山  
那賀郡 酒烈礒前薬師菩薩神社 サカツライソザキノ- 名神大 酒列磯前神社 茨城県ひたちなか市磯崎町  
那賀郡 藤内神社 フチウチノ (論)藤内神社 茨城県水戸市藤井町  
(論)立野神社 茨城県水戸市谷津町  
(論)有賀神社 茨城県水戸市有賀町  
那賀郡 石船神社 イハフネノ 石船神社 茨城県東茨城郡城里町岩船  
新治郡 3座(大1座・小2座)
新治郡 稲田神社 イナタノ 名神大 稲田神社 茨城県笠間市稲田  
新治郡 佐志能神社 サシノノ (論)佐志能神社 茨城県笠間市笠間  
(論)佐志能神社 茨城県石岡市柿岡  
(論)佐志能神社 茨城県石岡市染谷  
新治郡 鴨大神御子神主神社 カモオホムワノ- 鴨大神御子神主玉神社 茨城県桜川市加茂部  
茨城郡 3座(並小)
茨城郡 夷針神社 イハリノ (論)夷針神社 茨城県東茨城郡茨城町大戸  
(論)飯綱神社 茨城県笠間市泉 愛宕神社境内社
(論)足尾神社 茨城県石岡市小屋  
(論)胎安神社 茨城県かすみがうら市西野  
(論)子安神社 茨城県かすみがうら市東野  
茨城郡 羽梨山神社 ハナシヤマノ 羽梨山神社 茨城県笠間市上郷  
茨城郡 主石神社 ヌシイシノ 主石神社 茨城県鉾田市大和田  
多珂郡 1座(小)
多珂郡 佐波波地祇社 サハハノ (論)佐波波地祇神社 茨城県北茨城市華川町上小津田  
(論)佐波波地祇神社 茨城県北茨城市大津町  

延喜式における常陸国の式内社の1

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内閣文庫の延期式の常陸国の式内社ページの複写1

常陸国の信太群の2座・2社、久慈郡の7座・7社、筑波郡の2座・1社、那珂郡の7座・7社、新治郡の3座・3社の延喜式の記載です

※画像は、国立公文書館公開データの内閣文庫の延期式写本の常陸国ページデータ


延喜式における常陸国の式内社の2

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内閣文庫の延期式の常陸国の式内社ページの複写2

常陸国の信太群の2座・2社、久慈郡の7座・7社、筑波郡の2座・1社、那珂郡の7座・7社、新治郡の3座・3社の延喜式の記載です。

※画像は、国立公文書館公開データの内閣文庫の延期式写本の常陸国ページデータ


延喜式における常陸国の式内社の3

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内閣文庫の延期式の常陸国の式内社ページの複写3

常陸国の茨城郡の三座・三社、多可郡の1座・一社の延喜式の記載です。

※画像は、国立公文書館公開データの内閣文庫の延期式写本の常陸国ページデータ


茨城県の下総国の延喜式内社(小社3座3社)

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『延喜式』神名帳の下総国には、大社1座1社(名神大社)・小社10座10社の計11座11社を記載されています。そのうち、現在の茨城県の式内社は、以下の小社3座3社です。

神名帳 比定社
郡名 社名 読み 社名 所在地 備考
結城郡 2座(並小)
結城郡 健田神社 タケタ 健田須賀神社 茨城県結城市結城
岡田郡 1座(小)
岡田郡 桑原神社 クハハラ 桑原神社 茨城県常総市国生
相馬郡 1座(小)
相馬郡 蛟蝄神社 ミツチノ 蛟蝄神社 茨城県北相馬郡利根町立木

延喜式における茨城県の下総国の式内社

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内閣文庫の延期式の下総国の式内社ページの複写

下総国の結城郡の2座の内の1座1社の健田神社、岡田郡の1座の桑原神社、相場群の1座の蛟蝄神社は、現在、茨城県の式内社です。

※画像は、国立公文書館公開データの内閣文庫の延期式写本の下総国データ


茨城県の陸奥国の延喜式内社(小社1座1社)

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『延喜式』神名帳の陸奥国では、大社15座15社(名神大社)・小社85座85社の計100座100社が記載されていますが、茨城県の式内社は、白河郡 7座の内の以下の1座1社です。

神名帳 比定社
郡名 社名 読み 社名 所在地 備考
白河郡 7座(大1座・小6座)
白河郡 八溝嶺神社 ヤミソ- 八溝嶺神社 茨城県久慈郡大子町上野宮字八溝

延喜式における茨城県の陸奥国の式内社

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内閣文庫の延期式の陸奥国の式内社ページの複写

陸奥国の白河群の7座のうちの1座は、現在の茨城県大子町の八溝峰神社です。

※画像は、国立公文書館公開データの内閣文庫の延期式写本の陸奥国のページデータ