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白鳥(ハクチョウ)とは:特徴・種類・見分け方・食べ物


白鳥(ハクチョウ)とは

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白鳥は、カモ科ハクチョウ属の水鳥の6種の総称で、現生の空を飛ぶ鳥の中では最大級の大きさ・重量を有している。日本で越冬する白鳥は、オオハクチョウとコハクチョウの2種類である。
ハクチョウ属の学名は、ラテン語のCygnus(シグナス)、英名ではSwan(スワン)で、日本では、白鳥(ハクチョウ)と呼ばれるが、世界には羽が黒い黒鳥や首が黒い種類もいる。
種類によって寒帯(ツンドラ地帯)・亜寒帯(タイガ地帯)と温帯を季節に応じて南北に移動(渡り)するか、一定地域に生息している。日本では、白鳥と言えば、オオハクチョウとコハクチョウで北極海に面したロシアのツンドラ地帯やタイガ地帯、サハリンやカムチャッカ半島等で繁殖し、日本の北海道や本州の一部地域で越冬する。
浅瀬のある河川、湖沼、内湾などに生息し、水草の葉、茎、地下茎、根、穀物や牧草、海藻、昆虫等を食料としている。
白鳥は、親子、夫婦の絆が大変強く、つがいはどちらかが死ぬまでかわることがない。
世界の生息地において、古代から人とのかかわりが深く、美や愛、幸福の象徴として国・州・県・市町村・組織等のシンボルや、店・人・物の名前、芸術の対象として利用されている他、様々な伝説がある。


白鳥の種類と生息地・概要

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世界には、白鳥属(Cygnus)の白鳥としてコブハクチョウ、コクチョウ、クロエリハクチョウ、オオハクチョウ、ナキハクチョウ、コハクチョウの6種類がいる。日本で越冬する白鳥は、オオハクチョウ、コハクチョウの2種類で、移入された外来種のコブハクチョウやコクチョウは、一部地域の自然環境でみることができる。コブハクチョウは、国内間(北海道~茨城県)の渡りも確認されている。また、コクチョウ、クロエリハクチョウは、動物園等で見ることができる。また、ナキハクチョウも過去に日本に飛来した記録がある。

※以下の白鳥の種類の掲載順は、日本でなじみが深いと思われる順番です。

  • オオハクチョウ(大白鳥)

    オオハクチョウの取材写真
    学名:Cygnus cygnus 和名:大白鳥 英名:Wooper Swan
    アイスランド・スカンジナビア半島北部からカムチャツカ半島・サハリンにかけてのユーラシア大陸北部などで繁殖し、冬季になるとイギリスやイタリア北部・スイス・黒海沿岸・カスピ海・中華人民共和国の太平洋岸・大韓民国・日本などで越冬する。日本では、北海道から、太平洋側では茨城県・千葉県の利根川付近、日本海側では福井県あたりまでが越冬の南限である。

    オオハクチョウの詳細と見分け方
  • コハクチョウ(小白鳥)

    コハクチョウの取材写真
    学名:Cygnus columbianus 和名:小白鳥 英名:Tundra Swan
    ユーラシア大陸北部で繁殖し、冬季になるとヨーロッパ(アイルランド、イギリス南部、オランダ、デンマークなど)、カスピ海周辺、韓国・中国の東部、日本などへ南下し越冬する。日本では、一部北海道で越冬するが北海道を中継し、本州の青森県から島根県あたりまでが越冬地である。
    コハクチョウの詳細と見分け方
    別途、亜種として嘴(くちばし)が黒いアメリカコハクチョウがいるが、亜種を独立種とする説もある。
    ※アメリカコハクチョウ
    アラスカ州やハドソン湾などで繁殖し、冬季になるとカリフォルニア半島やチェサピーク湾などへ南下し越冬する。まれに、日本へも渡りをすることもある。
  • コブハクチョウ(瘤白鳥)

    コブハクチョウの写真
    学名:Cygnus olor 和名:瘤白鳥 英名:Mute Swan
    ヨーロッパ、中央アジアを中心に生息する白鳥で渡りも行う。
    日本では、1950年代に飼い鳥としてヨーロッパから移入された外来種であるが、北海道(ウトナイ湖)、青森県(小川原湖)、茨城県(牛久沼)、山梨県(山中湖)、鹿児島県(藺牟田池)等一部地域で繁殖・野生化し、通年見ることができる。また、管理されている公園の池や動物園等で見ることができる。

    コブハクチョウの詳細と見分け方
  • コクチョウ(黒鳥)

    コクチョウの取材写真
    学名:Cygnus atratus 和名:黒鳥 英名:Black swan
    オーストラリアに生息する固有種。内陸部の乾燥地帯と、ヨーク岬半島を除く全土、及びニュージーランドに生息している。その名の通り、表面の羽は黒色であるが小翼羽および初列風切と次列風切の外側は白色で.嘴(くちばし)は赤色である。
    1955~1960年に東京や京都につがいが輸入され、現在、茨城県水戸市(千波湖大塚池)や山口県、宮崎県の公園等で見られる。茨城県水戸市では、鳥インフルエンザ対応等のため繁殖を管理している。
  • クロエリハクチョウ(黒襟白鳥)

    クロエリハクチョウの写真
    学名:Cygnus melancoryphus 和名:黒襟白鳥 英名:Black-necked Swan
    南アメリカ南部のパタゴニアやフォークランド諸島の淡水の湖、湿地、干潟に生息する。
    頸(くび)が黒い。全長約105センチメートル。赤い鼻瘤(びりゅう)があり、嘴(くちばし)は灰青色、足はピンクである。南半球の冬には、北に向かってパラグアイ、ボリビア、ブラジル南部で越冬する。日本では、かつて京都市動物園、横浜市立金沢動物園、福岡市動植物園等でクロエルハクチョウが見られたが、2023年10月時点では飼育していない。狭山市立智光山公園こども動物園に2023年10月時点で1羽飼育されており見られる。
    ※日本で見られるクロエリハクチョウの最後の1羽かもしれません。
  • ナキハクチョウ(鳴白鳥)

    ナキハクチョウの写真
    学名:Cygnus buccinator 和名:鳴白鳥 英名:Trumpeter swanアメリカ合衆国北西部、カナダ西部の河川、湖沼、湿原、内湾などに生息し、長距離の渡りは行わないとされるが、日本への渡りの記録がある。鳴き声がラッパ(トランペット)のように響くことに由来する。全長150-180センチメートル、翼開張230-260センチメートルで、ハクチョウ属のみならずカモ科最大種である。嘴(くちばし)は大型で長く、黒い。
    【日本への迷い鳥記録の例】
    1. 1992年4月3日:一石ニ鳥で行こう!【復刻】ナキハクチョウ観察記(北上市展勝地)
    2. 2005年11月29日:野鳥 動画図鑑 :ナキハクチョウ(1)迷鳥(帯広市・十勝川ほか)
    3. 2006年2月11日: 鳥 とり 観察記:やったぁ!ナキハクチョウを撮る(久慈市)

白鳥の種類数と白鳥名表示について

白鳥(白鳥属)の種類は、オオハクチョウ、コハクチョウ、コブハクチョウ、コクハクチョウウ、クリエリハクチョウ、ナキハクチョウの6種類です。 白鳥の種類数や白鳥名については、日本白鳥の会(6種)英語圏版ウィキペディア(6種)日本版ウィキペディア(7種)日本鳥学会(日本鳥類目録第7版6種)、白鳥に関する本、インターネッ上の行政や団体等において、8種類、7種類+亜種1種類、7種類、6種類+亜種1種類、6種類等様々に記載されています。ただし、日本鳥学会の日本鳥類目録や日本野鳥の会のように生息地域や固有種に限定している場合には、6種以下の記載があります。
茨城VRツアーでは、日本白鳥の会、英語圏ウィキペディアと同じ6種(種類名も同じ)で表示しています。その主な理由は、以下の通りです。

  • 6種の白鳥は、白鳥属「Cygnus」(シグナス)であり、「白鳥座」の英語名も「Cygnus」で、ラテン語で白鳥の意味であること。
  • ウィキペディア(英語圏版)は、2023年1月時点の日本版ウィキペディアとは異なり、白鳥属6種に限定しており、「coscoroba swan」(カモハクチョウ)は、swan(白鳥)とは言えないと記載されていること。
  • 日本鳥類目録や日本野鳥の会等の生息地域等を限った白鳥分類以外のすべての種類表示に6種の白鳥名が含まれていること。
  • 世界の生息地によって、全体・各部の色の違いはあっても形態(大きさや形)が同じ方が分かりやすいこと。

なお、6種以上の場合には、コハクチョウの亜種を独立させているか、カモハクチョウ属(Coscoroba Reichenbach)の「カモハクチョウ」(C. coscoroba)を加えているかです。カモハクチョウは、南アメリカ南部に生息し、白鳥属の白鳥とは首の長さや大きさが異なります。

参考:<ウィキペディア(英語圏版) Swan>
There are six living and many extinct species of swan; in addition, there is a species known as the coscoroba swan which is no longer considered one of the true swans.
(和訳)
白鳥には6種類の現存種と多くの絶滅種が存在します。さらに、コスコロバハクチョウとして知られる種がいますが、これはもはや真の白鳥の一種とは考えられていません。


日本で見られる白鳥種類3種と特徴


オオハクチョウ(大白鳥)の特徴

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オオハクチョウの写真
(1)オオハクチョウの分布・越冬
日本に飛来するオオハクチョウは、シベリアやオホーツク海沿岸で繁殖し、越冬のため樺太や千島列島を経由し北海道~東北や関東・中部地方に飛来する。
(2)オオハクチョウの主な形態
※大きさ・体重ともに鳥類最大級です。雌(メス)は雄(オス)より小さい。
  • 成鳥:全長:140~160cm程※
  • 成鳥:翼開長:210~240cm程
  • 成長体重:8~15kg程
(3)オオハクチョウの特徴
  • 鳴き声:コォーなどと大きく甲高く鳴く、状況によって様々な鳴き方をする。
  • 飛行の離陸:体重が重いため水面からの離陸時に水面助走が必要
  • 渡りの飛行の距離:3000km程
  • フィンランドの国鳥
(4)オオハクチョウの主な飛来地
  • 北海道:屈斜路湖、濤沸湖、尾岱沼、風蓮湖、屈斜路湖、十勝川河川敷、ウトナイ湖、大沼他多数
  • 青森県:浅所海岸、大湊湾、十三湖、小川原湖
  • 岩手県:大堤公園・新堤
  • 山形県:最上川スワンパーク
  • 宮城県:伊豆沼、白石川河川公園
  • 福島県 猪苗代湖・白鳥浜
  • 茨城県:古徳沼、清水沼、白鳥の里
  • 新潟県:瓢湖、鳥屋野潟、佐潟、福島潟
  • 長野県:諏訪湖

コハクチョウ(小白鳥)の特徴

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コハクチョウの特徴と見分け方
(1)分布・越冬
ユーラシア大陸北部のツンドラ地帯で繁殖し、冬期にはイギリス南部、オランダ、デンマークなど)、カスピ海周辺から同緯度の日本など温帯へ渡る。日本では冬鳥で、ロシアのツンドラ地帯から温暖化の影響で一部北海道で越冬するが、北海道を経由し本州の青森県から島根県あたりまで飛来する。ツンドラ地帯からの渡りであるため、オオハクチョウより、越冬飛行距離が長い。
(2)コハクチョウの主な形態
※大きさ・体重ともに雌(メス)は雄(オス)より小さい。
  • 成鳥:全長:120~140cm程
  • 成鳥:翼開長:180~220cm程
  • 成長体重:5~11kg程
(3)コハクチョウの特徴
  • 鳴き声:コホッ、グワッ、コォーなどと鳴くがオオハクチョウより低い、状況によって様々な鳴き方をする。
  • 飛行の離陸:体重が重いため水面からの離陸時に水面助走が必要
  • 渡りの飛行の距離:4000km程
  • 北海道は、渡りの中継飛来地 ※一部北海道で越冬する。
(4)コハクチョウの主な飛来地
東北地方は、オオハクチョウと混在するため除外しています。
  • 茨城県:菅生沼、乙戸沼
  • 長野県:犀川白鳥湖、御宝田遊水池
  • 新潟県:瓢湖、鳥屋野潟、佐潟、福島潟
  • 滋賀県:琵琶湖湖岸(長浜市)
  • 鳥取県:米子水鳥公園
  • 鳥取県・島根県:中海
  • 島根県:宍道湖

コブハクチョウ(瘤白鳥)の特徴

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コブハクチョウ(瘤白鳥)の特徴
(1)分布・越冬
コブハクチョウは、もとはヨーロッパや中央アジアを中心にして生息する白鳥で、渡りも行うが日本では外来種である。茨城県のコブハクチョウは、皇居や彦根市・宇部市等から譲り受けたものが繁殖したものとされている。霞ヶ浦の北浦(潮来市:白鳥の里)には北海道のウトナイ湖、青森県の小川原湖からの渡りが確認されている。 
(2)コブハクチョウの主な形態
※大きさ・体重ともに鳥類最大級です。雌(メス)は雄(オス)より小さい。
  • 成鳥:全長:140~160cm程
  • 成鳥:翼開長:210~240cm程
  • 成長体重:8~15kg程
(3)コブハクチョウの特徴
  • 鳴き声:グワッ、グシュ―というような声をだす。甲高く鳴くことはない。
  • 飛行の離陸:体重が重いため離陸時に水面助走が必要
  • 渡りの飛行の距離:日本における事例では750㎞
  • デンマークの国鳥
  • 日本でアは外来種とされており、農業被害や鳥インフルエンザ等の問題がでている。
(4)コブハクチョウの主な生息地
  • 北海道:ウトナイ湖
  • 青森県:小川原湖
  • 茨城県:牛久沼
  • 千葉県:手賀沼
  • 山梨県:山中湖
  • 山梨県:宍道湖
  • 鹿児島県:藺牟田池
(5)コブハクチョウの外国の関連事項
英国では、法律上、国王がイングランドとウェールズの開放水域にいる印の付けられていない白鳥(コブハクチョウ)の所有権を保持しています。テムズ川の特定の場所に生息する白鳥は、800年間続いている「スワン・アッピング」という恒例行事で毎年調査され、個体数を管理しています。この管理者のチームをスワンマーカーといいます。
また、イギリスのオックスフォード大学やウィンザー上のあるバッキンガムシャー州の紋章、オーストラリアのスワンユナイテッドFCのマークもコブハクチョウです。旗やマークに記載された白鳥のイラストでも、以下の白鳥の見分け方(くちばしの違い)を知っているとすぐわかります。

オオハクチョウ、コハクチョウ、コブハクチョウの白鳥の違いと見分け方

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オオハクチョウとコハクチョウ、コブハクチョウは、全体が白色で大きさもほぼ同じなため単体や離れてみると区別がつかない。

<ハクチョウとオオハクチョウの違い(見分け方)>

オオハクチョウとコハクチョウとは、体重や全長、翼開長等大きさ、鳴き声等の違いがあるが大きさは成長段階、鳴き声は、オオハクチョウとコハクチョウ混在している場所が多く、また、その時の行動状況で変わるため判別しにくい。クチバシを見ると一目で違いがわかる。
<クチバシの違い>
オオハクチョウのクチバシは、黄色部の先端がが尖っているが、コハクチョウは、尖っていない。また、オオハクチョウは黄色部がくちばしの半分以上であるが、コハクチョウは半分以下である。また、オオハクチョウのくちばしはすらりとし先端が尖っているが、コハクチョウは、ごつごつした感じで先に丸みがある。

<オオハクチョウ・コハクチョウとコブハクチョウの違いと見分け方>

オオハクチョウ・コハクチョウとコブハクチョウは、クチバシを見ると一目で違いがわかる。
<クチバシの違い>
オオハクチョウ・コハクチョウは、クチバシが黒色と黄色で構成されるが、コブハクチョウはオレンジ色である。また、コブブハクチョウは、クチバシの上部の付け根に黒いコブのような裸出部がある。

オオハクチョウ・コハクチョウ・コブハクチョウの特徴と見分け方

オオハクチョウ、コハクチョウ、コブハクチョウの実際の違い写真

  • オオハクチョウの違い(見分け方)

    オオハクチョウの特徴と見分け方

    眼先に羽毛がなく黄色い皮膚が裸出し、この黄色部は鼻孔下部まで達し、尖っている。また、他の白鳥よりもクチバシもすらりとし、少し尖っている

  • コハクチョウの違い(見分け方)

    コハクチョウの特徴と見分け方

    くちばしの先端が丸みを帯びているか、または角張って突出せず、オオハクチョウに比べて黄色の部分が少ない。また、くちばしの黄色部が尖っていない。

  • コブハクチョウの違い(見分け方)

    コブハクチョウの特徴と見分け方

    扁平なくちばしはオレンジ色で、くちばし上部の付け根に黒いコブのような裸出部がある

白鳥の飛来(越冬)の条件

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日本には、オオハクチョウ、コハクチョウが越冬のため飛来します。

越冬する白鳥の飛来地条件は、安全な寝ぐらがあること、餌があること、渡りの飛行距離制限内の場所であることの3つが同時に成立している必要があります。


(1)凍結しない安全な湖・沼・池等の寝ぐらがあること

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白鳥の天敵は、キツネ、タヌキ、イタチなどの肉食獣やオオタカなどの大型猛禽類です。山間部ではなく、見晴らしの良い平地で肉食獣が近寄れない湿地・浅瀬や柵等がある、安全で凍結しない内海、湖、池、沼、川があることです。
また、白鳥は、体重があるため水面から飛び立つために助走(10m程)が必要で、見晴らしの良い、相当の大きさの湖面(水面)が必要です。上記の条件を満たしていると、市街地、住宅地内の沼や池も対象となります。
なお、白鳥は賢いため、危険を経験するとその日又は翌年から飛来がなくなることがあります。この例には、狩猟・射撃場の銃砲音、釣り場(竿・釣り針・テグス)、レンコン畑等の防護ネット等があります。


(2)白鳥の餌があること

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白鳥の餌は、ヨシ、ガマ、マコモの茎や根、蓮の茎や根(レンコン)、水中の藻、落穂や牧草、昆虫等です。そのため、寝ぐらとする沼や池、その周辺に餌場があることが条件です。なお、多様性の問題として、餌やりを禁止する場所も増えています。


(3)白鳥の種類による渡りの飛行距離制限内であること

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白鳥は、種類によって大きさ(体重)が異なるため、繁殖地からの飛行距離に制限が有ります。 オオハクチョウの飛行距離は約3,000㎞、コハクチョウは約4,000㎞といわれています。また、コブハクチョウも必要に応じて渡りをします。北海道のウトナイ湖のコブハクチョウは、茨城県の霞ヶ浦の北浦で越冬することが日本鳥学会の調査で確認されていますが、この間の距離は約750㎞です。
オオハクチョウの飛来地は、北海道から関東の利根川を境にした付近(潮来市の白鳥の里)が南限で、コハクチョウは、本州の宮城県以南から日本海側の島根県あたりまでです。


日本で越冬する白鳥の食べ物(餌)と餌場

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白鳥の食べ物は、ヨシ、ガマ、マコモの茎や根、蓮の茎や根(レンコン)、水中の藻、落穂や牧草、海藻などですが、飛来地条件によって様々です。また、その飛来地の沼や湖、内湾等自体が餌場である場合や、ねぐらと餌場が異なる場合があります。
また、餌場は、餌があるということだけではなく、天敵に狙われない安全な場所であることが必要で見晴らしの良い田畑や牧草地などになります。
ねぐら自体に餌がある場合には、終日観察できますが、異なる場合には観察できるのは朝方や夕方となります。餌場は、天敵に狙われない 都市部の公園の池や農業用ため池には、さほど餌となるものはありません。その池や沼がハス田やスイレン池などの名所場合には、終日見られる場合があります。


白鳥の食べ物

以下は、代表的な白鳥の食べもの写真と説明です。

  • 白鳥の食べ物【ヨシ・水藻】

    白鳥の餌のアシと水藻の景観写真
    ヨシ(葦)は、イネ科ヨシ属の多年草。河川および湖沼の水際に背の高い群落を形成します。白鳥は、ヨシの根、茎を食べます。ヨシは、5月から6月までの新芽の時期に摘み取り、干して粉にしたものは栄養が豊富で蕎麦やうどん、アイスクリーム等に入れて食することができます。また、冬にヨシ刈りが行われ、葦簀(よしず)や茅葺(かやぶき)等の材料にされます。
    写真の藻は、アオミドロと思われますが藻のアオミドロも白鳥は食べます。※写真は、茨城県水戸市の白鳥飛来地の大塚池のヨシの隙間に藻が見える写真です。
  • 白鳥の食べ物【ガマ】

    白鳥の食べ物のガマの茎と根の景観写真
    ガマは、ガマ科ガマ属の多年草の抽水植物。白鳥は、ガマの根や茎を好んで食べます。日本国内全域で見られ、シーズンには茶色のガマの穂があるためすぐわかります。若葉は食用にもなり、陰干ししたものが生薬となり、蒲黄(ほおう)と呼ばれます。根はスポンジ状で、多くのでんぷんが含まれ食用とされ、ガマの穂の黄色い花粉には、フラボノイド配糖体の複数の成分が入っており、止血剤になります。
  • 白鳥の食べ物【マコモ】

    白鳥の食べ物のマコモの茎と根の写真
    マコモは、水辺に群生するイネ科の多年草。マコモは、根や茎がハクチョウの大好物です。大きく伸びた茎は、マコモダケとして食料となるため農家で生産され、直売所等で販売されている他、茎やマコモ茶が通販もされています。あまり知られていませんが、マコモの茎は、ビタミンA・βカロチン・ビタミンC・ビタミンE・葉酸が、ほうれんそう、ニンジン、ピーマンの数倍~十数倍多くあります。
  • 白鳥の食べ物【二番穂】

    白鳥の食べ物の二番穂の景観写真
    二番穂とは、一度刈った稲から再び成長して出穂した穂のことです。二番穂の米は、粒が小さく品質が悪いため食料として収穫しません。田んぼは、稲刈りの日から翌年1~2月頃までに耕されますが、それまでの二番穂は白鳥の餌になります。また、土地が耕されたあとも、表面や土の中に米が残ります。また、土が掘り起こされることによりミミズや昆虫や害虫の幼虫等がでてきて、白鳥やサギ等の鳥の餌になるとのことです。

白鳥の食べ物と餌場

以下は、農業用ため池がスイレンの名所になっている場合と餌場がねぐらと別の場合におけるオオハクチョウの白鳥の餌を食べる様子の映像です。また、餌場が別の場合における、朝にねぐらを離陸する様子と夕方に戻り着水する様子も映像でご覧いただけます。

  • 文洞沼の白鳥の食事【那珂市】

    那珂市文洞沼の白鳥の食事の様子
    スイレンの名所の沼で深水は、0.5m~1m程度です。
    白鳥の越冬数は、少ないですが日中に食事しているところを観察できます。
    メインの餌は、スイレンの根や茎です。首を水面下に伸ばして食べる様子をご覧いただけます。なお、周りにオウバンがいますが白鳥と同じものを食べています。この映像には写っていませんがオウバンの場合には、水面下に数十秒もぐって餌を食べます。
    スイレン名所の飛来地は、茨城県小美玉市にも池花池があります。
  • 牧草地の白鳥の食事【水戸市近接】

    水戸市近接の牧草地の白鳥の食事の様子
    映像の餌場は、水戸市隣接の見晴らしの良い田園地帯でかなり広い田と牧草地があります。この場所には50~100程の数グループが離れて飛来しており、近隣の複数のねぐらから飛来していると思われます。この場所と異なる牧草地で農家の方から聞いた話では、最初は追い払っていたが、すぐに来てしまうのであきらめたとのことです。3月北帰行すること、その後収穫までに育つこと、ふんが肥料にもなること、動物保護等も考慮しているような話でした。牧草は、イタリアンライグラスということで調べてみると秋種まきで、4月、5月、6月の3回収穫できることが記載されており、白鳥の餌になることで減収の影響はあると思われます。

白鳥の餌場と朝夕の飛行

  • 白鳥の餌場への離陸【水戸市】

    水戸市清水沼の白鳥の朝の飛翔の様子
    朝の6:30~8時ごろまでに、漸次餌場に向かって離陸します。
    向かった場所は、前記の田園地帯と思われます。出発順番は鳴き声等何らかの方法で調整しているようです。沼は、霞ヶ浦の北浦のように大きくないため離着陸の飛行コースは1つです。グループごとの順番は鳴き声等何らかの方法で調整しているようです。この池の場合、池全体から徐々に西側に移動し、その中から10羽~20羽が2~3列に横並に並び、漸次離陸していきます。
  • 白鳥のねぐらへの着水【水戸市】

    水戸市清水沼の白鳥の戻り飛行の様子
    4:30頃から暗くなる6:30頃まで漸次、ねぐらに戻ってきます。
    概ね5分~10分間隔で10~20羽程度の集団で着水が続きます。
    漸次暗くなるまで着水を観察できます。着水も鳴き声等何らかの方法で調整していると思われます

白鳥の渡りと渡りの理由について

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白鳥は、冬は日本で越冬し、夏は、北極圏のツンドラ地帯やタイガ地帯等で繁殖するために渡りを行います。
何故、白鳥は、危険をおかしてまで片道3,0000キロメートル以上の渡りをするのでしょうか。
単にツンドラ地帯やシベリアが寒いから温かい日本で過ごすというような理由ではありません。


何故、白鳥は渡りをするか

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渡りの前提として、白鳥は空を飛ぶ鳥として世界最大であり、草食動物です。
白鳥は、卵から孵化までが約1カ月、孵化したヒナは、約5か月で世界最大級の成鳥になる必要があり、そのため大量の食料が必要です。夏季の北極圏のツンドラ地帯やタイガ地帯には、白鳥の餌が大量にあります。
しかしながら、北極圏は、夏と冬の2季で、夏が終わるとすぐに冬になるため湖沼が凍結します。湖沼が凍結すると食料が無くなるばかりでなく、キタキツネ等の肉食獣やシロハヤブサ等の大型猛禽類に捕食されてしまいます。
一方、日本には、冬に餌場があり、凍結しない、安全な湖沼が多数あります。

危険を冒しても渡りをしなければならない理由は、大きく以下の2点で、一言でいうと「白鳥の子孫を残すため」です。

(1)繁殖において短期間で大量の食糧が必要
ハクチョウは、基本的に草を主食とする「草食動物」で、オオハクチョウは、卵を4~7個、コハクチョウは、2~6個産みます。卵の孵化率は不明ですが雛になるのは2~4羽程度です。雛は、冬季の渡りに備えて5カ月程度で親と同じくらいの大きさにならなければなりません。その食料をハクチョウが手に入れられるのがツンドラ地帯やタイガ地帯等の寒帯・亜寒帯地域です。ツンドラ地帯やアフリカのサバンナのように厳しい環境で育つ植物は、解凍期や雨期の到来によって短期・爆発的に植物が発生します。ツンドラ地帯やタイガ地帯は、草や水草ばかりではなく、水中の藻なども一気に発生します。白鳥の雛(ヒナ)が短期間で成長する豊富な食料があります。
(2)天敵が少ない安全な場所
ツンドラ地帯(寒帯)やタイガ地帯(亜寒帯)は、温帯地域に比べて猛禽類や肉食獣が少ない。
また、白鳥が繁殖地とする場所は、見晴らしの良い湖や沼のある場所で、水上や水上の繁みにいる限り、捕食される可能性は低いといえます。
日本への確認されているハクチョウの飛行ルート(環境省事業「渡り鳥の飛来経路の解明事業)では、コハクチョウの繁殖地がツンドラ地帯(Sylgy-Ytar周辺)、オオハクチョウの繁殖地がタイガ地帯(ニャドバキ周辺)です。Googleマップの航空写真版で見ると、広大な平坦部に無数の湖や沼があるのがわかります。その規模は日本の飛来地のレベルではありません。
また、ハクチョウの卵やヒナは、キタキツネやホッキョクギツネ、アライグマ、ワシやタカ等が天敵です。そのためヒナは、一刻も早く湖上の繁みに隠れる泳ぎを身に付けなければなりません。
サバンナの草食動物は、生まれてすぐに立ち上がり歩くことができるように、白鳥のヒナも孵化してすぐに歩くことができ2~3日で親について泳ぐことができる他、餌も親から与えられるのではなく、自ら食べることができます。ヒナが5か月で3000㎞以上の飛行に耐えうる世界最大級の成鳥になるためには、飛行の練習と、ひたすら食べ続ける必要が有るということです。

参考:NHKアーカイブス:「シベリア コハクチョウの親子 水たまりで泳ぎの練習」、「シベリア コハクチョウのヒナ 水草食べる

白鳥の日本の越冬地とツンドラ地帯等の繁殖地の環境比較

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(1)日本の白鳥における季節環境
  • 夏:草や藻類は増える。天敵の猛禽類や肉食獣が繁殖を行うため、活動が活発になり、天敵に白鳥が捕食される可能性が大きい。
  • 冬:アシ、ガマ、マコモ等の適度の餌があり、凍結しない湖や沼が多くある。冬は天敵の活動が少なくなる。
(2)ツンドラ地帯等の季節環境
  • 夏:氷が解け、短期間・爆発的に植物が増加する。天敵は日本の夏より少ないが、卵やヒナが捕食される可能性がある。
  • 冬:地面・湖面が凍結し、餌が手に入らなくなる。湖に水面が無くなるため天敵に容易に捕食される。

上記のように、白鳥は、通常時の食料確保、繁殖時の食料の確保と、産卵や子育ても含めた身の安全のために渡りをしなければ生き残れないといえます。冬は日本で越冬し、夏にツンドラ地帯等で産卵や子育てを行うことは合理的であり、白鳥は食べ物の確保と身の安全を守るため長い進化の過程を経て渡りの修正を身につけ日本に越冬するようになったということです。
なお、「食べ物の量が鳥の渡りに大きく影響している」と最初に唱えたのは、イギリスの博物・生物・地理学者のウォレス(Alfred Russel Wallace, 1823年-1913年)といわれています。
※参考文献:鳥学の100年 著者:井田徹治


鳥(白鳥)の渡りに関する基本用語


渡りとは

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渡りは、1年の間に遠く離れた「繁殖地」と「越冬地」又は「越夏地」との間を季節的・定期的に往復する鳥の移動のことです。白鳥やカモ・雁、ツバメやホトトギスのように「渡り」する鳥を「渡り鳥」と呼び、スズメやムクドリのように渡りをしない鳥を「留鳥」といいます。


繁殖地

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繁殖地は、鳥が卵を産みヒナを育てる場所です。ヒナが短期間で成長しなければならないため、たくさんの食料が容易に手に入り、繁殖や子育てに最も安全な湖沼、森林、河川敷等の場所で繁殖します。日本の白鳥の繁殖地は、ロシアのツンドラ地帯やタイガ地帯等です。ツバメ、ホトトギス、カッコウ、オオルリ等は日本が繁殖地です。


越冬地

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越冬地は、鳥が冬を過ごす場所です。冬に食料を調達できて、凍らない湖等のある安全な場所です。ハクチョウをはじめとしてカモやガン、ツグミ、マヒワ等が日本で越冬します。日本で越冬する鳥を「冬鳥」といいます。日本には、15科75種以上の「冬鳥」がいるそうです。


越夏地

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越夏地は、鳥が夏をすごす場所です。ツバメ、ホトトギス、カッコウ、オオルリ等は、日本を繁殖地にしています。 日本で越夏する鳥を「夏鳥」といいます。日本では、春から夏にかけて昆虫類が圧倒的に多くなる時期で東南アジア等から繁殖のため多数の夏鳥が渡ってきます。日本には、21科70種以上の夏鳥がいるそうです。なお、白鳥も、ほぼ毎年のようにケガや病気が原因で越夏する白鳥がいます


中継地

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中継地は、渡りにおいて休憩、食料の補給等で立寄る場所です。シギやチドリ等は、シベリヤ等で夏に繁殖し、冬は東南アジアやオーストラリア等で越冬しますが、渡りの途中、春と秋に日本の沿岸の干潟に休憩のため飛来します。日本を中継する鳥を「旅鳥」と呼びます。白鳥も日本国内で本州にわたるオオハクチョウやコハクチョウは、北海道を中継地としています


参考文献

    1. 著作者:内田清之助 書名:鳥学講話 発行所:中文館書店 出版年:大正16年6月10日
    2. 著作者:井田徹治 書名:鳥学の100年 発行所:株式会社平凡社 出版年:2012年9月14日
    3. 著作者:角田 分 書名:Swan in Jpan その生態をを負う 出版年:2009年10月21日
    4. 著作者:芦野 泉 書名:白鳥の古代史 発行所:新人物往来社 出版年:1994年12月年10日
    5. 著作者:日本鳥学会(日本鳥類目録編集委員会) 書名:日本鳥類目録 改定第8版 出版年:2024年9月13日
    6. 原著:貝原益軒(貝原篤信) 考註:岸田 松若、田中茂穂、矢野宗幹 書名:大和本草 出版年:1980年10月20日
    7. 原著:四時堂 其諺(shijidō, kigen) 書名:滑稽雑談(1713年[正徳3年])8月) 発行所:一まに書房 出版年:1980年12月23日
    8. ウィキペディア(英語圏版) Swan  https://www.wikiwand.com/en/articles/Swan
    9. ウィキペディア(日本版)ハクチョウ https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E3%83%8F%E3%82%AF%E3%83%81%E3%83%A7%E3%82%A6&variant=zh-cn
    10. By VOGUE JAPAN 2018年8月2日 URL:https://www.vogue.co.jp/celebrity/celebscoop/2018-08-02/cnihub